ESPRIT Bakery&Café 吉村 学シェフ – 波刃モンスター|株式会社サンクラフト

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User Interview
ESPRIT Bakery&Café 吉村 学シェフ

長い刃渡りと鋭い切れ味で
パンの表現幅が広がるナイフ

Interview

完全週休二日制、8時間労働のパン屋さん

ーもともとパンの卸業をやっていた吉村さんがお店を出そうと思ったきっかけは?

吉村:パン屋に挑戦したいという構想は10年以上ありました。
ただ、我々がやるならどんなパン屋をやるかなとずっと考え続けてきました。
5、6年くらい専門学校の非常勤講師をしているのですが、そこで出会うパンを志す若い人たちが最初はキラキラして「パン業界に就職します!」って言ってくれますが、3年くらい経つとこの業界に残っていない。

パン業界は楽しそうに見えて大変。というお話はよく聞きますが…

吉村:夢と現実のギャップは確かにあると思います。
僕がパン屋を志してこの業界に入った頃は3Kもいいところだったし。
朝早くから夜遅くまでの長時間労働、ずっと立ち仕事だし女性にはきついのかなと思ったりする業界ではあったのですが。
今の働き方改革の中で、パン業界ってちょっと取り残されている業界ではあるのかなと思っていて。
若い子たちの働き方に対する思いや考え方とちょっとズレてきていると、ここ5、6年強く感じていました。
なので僕が店をやるなら完全週休二日制、8時間労働で終われる。
そんなパン屋を目指してみたいなと思っていたことと、我々はパンの卸業なので作業が分担できるので実現できるなと思いました。

ESPRIT(エスプリ)は8時間で業務が完結するんですか?

吉村:うちの店、店舗での仕込みがないんです。
全ての生地の仕込みを工場でやって、タッパーやボックスに入れて低温で長時間発酵させながら温度帯を分けて管理し、それをお店に移送して。
お店では朝出勤したら、すぐ生地を分割・成型・焼きと始まるようにしています。
だいたい一つの生地を16時間くらい発酵させるので、1日24時間のなかから発酵時間の16時間を引くと8時間労働で済むっていう計算ですね。
究極に効率を考え、人の寝る時間を作り、最大限のパフォーマンスを生み出す。
長い時間をかけて発酵することで水和がより進み、消化も良くなるし美味しさもぐっと引き出てくる。
ちゃんと発酵時間をとった美味しいパンが比較的短時間、労働力としては最小限でできる。
こんなパン屋は他ではなかなか無いし、実現できないと思います。

パン屋としての仕組みを考えたということですね

吉村:もともと株式会社小麦家はパンの卸業をやっていて、全国に向けて専門的にパンを卸すというちょっと難しいことをやってきた会社です。
それを生かして「我々ならどういうパン屋ができるのか」「我々ならどういうエッセンスが入れられるか」そういったところをすごく考えて経営することで、パン屋としてより差別化できるかなと思ってやっています。

パン屋を続けながら、パン業界のためにできること

ーお話を伺っていると非常に戦略的に経営されているように感じますが…

吉村:お店をオープンすることで満足するのではなくて、僕は続いていくっていう事がとっても大切だと思っていて。
例えばお客様に認めてもらえなくてパンが売れなければ続いていかない。
やっぱり3年残る店って少ないので、まずは3年残れるように考えていかなければいけない。
でもそれだけじゃなく、働いてくれる方々が生き生きと働いてくださるからお店が続いていける。
働き方に無理がないようにすることでスタッフがパン業界から抜けずに残っていってくれる。
そういう事もきっと大切なんじゃないかと思っています。

ー無理なく好きな仕事が続けられる形ができていますね

吉村:例えば仕込みがないってすごく大きなことなんです。比較的誰でもできるように業務を分業化することで、力を分散せず集中できる。
分割・成型・焼きだけを毎日やれば、半年たてば僕と変わらないくらいできるようになると思っているんです。
そこの部分ではプロフェッショナルになる。
お店では分割・成型・焼きを教えます。
でもモチベーションがあって「一流になりたい」「パンの仕込みを見たい、覚えたい」という場合は工場で更に学んでもらう。
そうやって工場と店の間で人の循環ができ、人手不足の問題もある程度解消されます。
店舗スタッフは募集しやすい業態ですよね。
いきなり工場っていうとなかなか人が集まらなかったり、応募が少なかったりします。
特に若い子はそうですね。工場と店の間で人の循環が出来て、バランスが取れるのかなと思っています。

ー吉村さんのパン業界を支えていこうという思いが伝わってきます

吉村:一番根っこに思っていることは、料理人のシェフやパティシエの方に比べるとまだまだパン職人の地位って低いんですよね。
先ほどもお話ししたように、パン職人って重労働だったり長時間労働だったり、体も酷使します。
実は頭の回転もすごく早くないとできなかったりするんですよ。
料理は「作るもの」と言いますが、パン職人にとってパンは「育てるもの」っていう認識です。
パンの生地は生きているものなので、どう育てるかにはやっぱり愛情がないと良いパンはできないと思っています。
サボればサボったパンになるんですよね。
窯から出てくるまでしっかり愛情をかけて、タイミングやバランス、いろんな適性をちゃんと見てあげる。
そうすればちゃんとしたパンになるし、とっても美味しいパンが焼けるんですよね。
師匠からは「人間性がパンになるんだよ」って言われていました。
そんなに苦労しているのにパン職人の地位は低いまま。
「パンは日常のもの」っていうのもあるんですけど、僕一人の力では変えられないにしろ、ゆくゆくはパン職人の社会的地位をもうちょっと向上させていきたいという想いが、ずっと根っこにあります。

伝えていくこととSNS戦略

ーESPRIT(エスプリ)はInstagram運営がうまい印象がありますが、何か戦略はありますか?

吉村:これからの時代「いいものを作って店に並べておけばいいだろう」という時代ではないと思っていて、より広く知ってもらうためにはSNSという場で、僕たちの考え方や姿勢を伝えて、その中でどういったファンを作るかといった戦略が大切だと思っていて力を入れています。
お店に立って、僕たちの考え方を常日頃お客様にお話できればいいんですけど。
なかなか日々の業務に忙殺されていて、実際にできることもそんなに多くないですからね。

ーSNS運営は大変だと思うのですが決め事などはありますか?

吉村:SNSチームをスタッフ内で作っています。
専任で一人のスタッフがやると疲弊してしまう場合もあるし、アイディアも限られてきてしまう。
無理がないように交代制で運営していますね。
さらに投稿して終わりではなく、投降後も何かに続くようにアップデートできるように意識しています。
そしてSNSを通じて僕たちもどんなパンの反応がいいのか計っていたりしますね。

ーInstagramがもとで商品化したパンもありますか?

吉村:ありますよ。
お客様からDM(ダイレクトメール)で「こんなパンを作ってほしい」「こういう風にするともっと面白いんじゃないか」などいろんなアイディアを頂いて。
パン職人の発想では思いつかないようなことを教えていただいて、じゃあ挑戦してみようって。
挑戦することはすごく大切だと思っているし、大好きなのでどんどんやっています。
失敗することもたくさんあるんですけど、ひょんなことから成功したりするので、とりあえずやってみようという姿勢で、何でもやっています。

パンのフォルムや色彩の表現幅を広げるナイフ

ー波刃モンスターを使った感想を聞かせてください。

吉村:これからは「大きなパンを作ってもいいんだな」と考えられるようになりました。
パンは、大きく焼けば大きく焼くほど中身がしっとりしてくるし美味しくなったりするイメージがあるんですけど。
大きな鉄板一枚で焼いてみても刃渡りの短いナイフでカットすると2回刃を入れることで断面がギザギザになって商品価値が無くなってしまう。
今まではナイフの刃の長さから限界サイズを決めていたけれど、波刃モンスターなら自由な発想でいろいろな大きさのパンに挑戦できるかなっていうのは思いました。

ーメニューの幅が広がるという事ですか?

吉村:例えば、フォカッチャも天板で大きく焼いて切り分けることでキューブ型など形が自由にできます。
もともとパンは形でのバリエーションが出しづらい。
「シャープなイメージで作りたい」と思ってもカットでしかシャープさが出ません。
どうしても、ぼてっとした丸いフォルムになりやすい。
しかもメイラード反応で焼いたら全部茶色。お店の棚を見たら全部茶色ということも多い。
でもパンの断面はしっかり色が出てくれるので、カットすることでフォルムや色彩の表現ができます。
ビーツを入れて赤色を出してみたり、いろんなことにチャレンジできる。
メニューの可能性をすごく感じました。

ー波刃モンスターは、どんな場面で活躍していますか?

吉村:大きく焼いて切り売りするパンを販売しています。
一般的なパン切りナイフでは、焼きたての状態でうまく切ることができず、泣く泣く前夜に焼いて翌朝カットしていました。
波刃モンスターは、焼きたてのパンもスパッとキレイに、形を潰さずに切ることができて感動しました。
朝焼いたパンも、冷めるまで待つことなく、オープン時から切って提供できるようになって、嬉しいです。
しかもこれだけ長くてこれだけ軽いってことに驚きですね。
刃渡りが長いから使う前は切れ味にむらがあったりするのかなと思ったけれど、どこで切ってもスパッと切れる。
大きなパンを焼いているパン屋なら手放せない一本になりますよね。

ESPRIT Bakery&Café(エスプリ)
吉村 学
GAKU YOSHIMURA

1982年生まれ。「MAISON DE FROMENT(メゾン ド フロマン)」ブランドとして全国のレストランやホテルに安心安全で高品質なパンを提供する株式会社小麦家の代表取締役であり、ESPRIT Bakery&Café(エスプリ)のオーナーシェフ。パンの卸業とベーカリー双方の強みを生かしながらパンの新たな可能性に挑戦している。

岐阜県岐阜市長良東1-29
10:00〜18:00
水曜定休
https://shop.komugiya.co.jp/

株式会社小麦家
https://www.komugiya.co.jp/