特別対談
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特別対談
EN VEDETTE 森 大祐シェフ × Eclat des jours 中山 洋平シェフ
一流の職人を育てることと、
一流のお菓子をつくること。
波刃モンスターを愛用してくださっている、二人の実力派パティシエによる対談が実現!
共に輝かしい受賞歴を誇り、国内外から注目を集めている職人同士ですが、店舗も年齢も近く、中山シェフは森シェフのことを“兄貴”と呼ぶほど、親交が深い二人。
さらに森シェフの実家は洋菓子店、中山シェフの実家はパン屋と、シェフの親のもとで育ってきたという共通点もあります。
波刃モンスターの商品開発時には使い心地をお聞きしたり、開発にあたってアドバイスをいただいたりと、とてもお世話になりました。
そんなご縁もあり、今回のスペシャル対談が実現。
第一線で活躍するお二人に、業界の今昔や、働きかたや教育について、語っていただきました。
contents
1. 一流を目指す若者の、昔と今。「職人になるための教育」は変わらない。
2.「ルールも答えもない」から、探し続ける。実力派パティシエが考える“働き方改革”。
3.「カットは、職人の技術の中で一番難しい」。美しくて美味しいお菓子に仕上げるために。
4.「個店の価値は、職人の個性にある」。誰でも作れるお菓子では、意味がない。
interview
一流を目指す若者の、昔と今。
「職人になるための教育」は変わらない。
ーお二人とも、ご実家も同業界だとお聞きしましたが、子どもの頃からこの仕事に憧れがあったんですか?
中山:子どもの頃かあ。…何も考えてなかったわ(笑)。
森:僕もそう。当たり前すぎて。良いも悪いもなかったなあ。
中山:でも「親と同じ道は嫌だ!」って思ったことは一度もないですね。何不自由なく育ててもらったし「自分でやったら楽しそう、儲かるかも」というイメージは、なんとなくありました。
森:僕らの親の時代って「店出せば人が来る」「新しいもの作れば売れる」っていう時代だったからね。
中山:そんないい時代のど真ん中にいても、しっかり考えて先を見て、真面目にがんばってた人だけが、今生き残ってる感じはありますけど。
森:だから僕は、流れに乗るのもいいけど、ときには時代に逆行することも必要だと思ってるんです。極端に逆を行くまではしなくてもいいから、時代の流れをちゃんと知って「今、世間がこういう流れだから」「10年後にこうなるだろう」「だから自分はこうしたい」って考えられる人じゃないと、生き残れないと思っています。
ー昔と今では、教育も変わってきましたか? お二人の修業時代って、今より厳しい時代だったのでは…。
中山:うーん…。うちの店は今も結構厳しい方だと思うので、そんなに大きな変化はないかも。僕が感極まって泣きながら怒るときもありますよ。とにかくスタッフが「ここで働いてよかった」と思えるような店づくり、お菓子づくりをしたいと常々思ってます。
森:そもそも「どんな人材を育てたいか」で、教育方法はだいぶ変わるよね。
中山:「ただ駒のように使いやすいスタッフを育てたい」のか、「職人を育てたい」のか。
森:そう。それによって、指導の幅も、熱の入り方も違います。中山くんもそうだと思うけど、僕はせっかくうちを選んで来てくれたのなら、一流の職人になってもらいたいし、ちゃんと「職人になれるような教育」をしたいと思ってます。そういう意味で言えば、昔と今とで根本はあまり変わってないんじゃないかな。修業時代、めちゃくちゃ怖かった師匠も先輩も、今思うと「あのとき、師匠はこういう気持ちだったんだなあ」って、今になってひしひしと感じてます。そのおかげで今があるので、とても感謝しています。
中山:教育に関してひとつ言うなら、僕らの修業時代と比べると今の方が社会的な制約が出てきてるので、当時当たり前だったことが通用しないな、と感じることはありますね。でも時代が違っても、立とうとするステージは変わらないし「職人になりたい」という想いだけは、昔と一緒だと思っています。
「ルールも答えもない」から、探し続ける。
実力派パティシエが考える“働き方改革”。
ー今「社会的制約」というワードも出てきましたが、今はどの業界でも「働き方改革」が叫ばれています。製菓業界にとっての「働き方改革」って、どんなことができるでしょう?
森:働き方改革かぁ…。この業界に限らずどんな職種もそうだと思うんですけど、社長ひとりで「改革だ!」って言ってるだけでは何も変わらない。店全体、会社全体としてそういう空気にならないと、本当の改革ってできないと思います。その中で、オーナーがスタッフにしてあげられることはいろいろあると思いますけど。
中山:そう。単に人を増やすだけじゃ解決しないし。「20時になったら電気が消えます!帰ってください!」って、クオリティ維持でも働き方改革でも何でもない。
森:そうなんだよね。人を増やして強制的に終業時間を決めて「うちの店は働き方改革完了です!」なんて、絶対ならない。例えば人を入れたことで既存スタッフの作業量が仮に減ったとしても、もしそれでクオリティが下がったら本末転倒だし、クオリティが下がることで、みんなのモチベーションも下がるかもしれない。だから、職人の世界の働き方改革は、正直言ってとても難しいんです。モチベーションもクオリティも維持しなきゃ、意味がないんですよね。
ーそんな難しい中で、実際に実行していることや、していきたいと思っていることはありますか?
森:物理的なことだと、うちの場合は新しい工場を建てて作業場を広くしたことも、そのひとつですね。生産量を増やすのが大きな目的ですが、スタッフの仕事のしやすさも考えて、働きやすい環境づくりがしたいな、と。
中山:うちは、配合かな。お菓子の「クオリティが変わらない」ことは大前提ですが、配合を見直すことで、クオリティを維持したまま作業効率が上がるものもあるんです。
森:今は、新しい材料もたくさん出てるしね。
中山:そう。クオリティさえ維持できれば、昔のやり方に固執しなくてもいい。更に最良な方法があるなら、試してみたいと思っています。お菓子を作るためのルールって、決まってないんですよ。いや、お菓子だけじゃなく全てにおいて、絶対的なルールは無いと僕は思ってるんです。ゴールを変えずに方法を工夫していくこと、新しいやり方を考えることで、得られるものはたくさんあると思います。
森:本当にその通りで。昔はとにかく体で覚えていくしかなくて、師匠に聞いたことが全てだったけど、それが正解かどうかなんて誰にもわからないですからね。最終的に目指すクオリティに到達できればいいし、変えてみることでクオリティが上がる可能性もある。「工程を減らしてもクオリティは一緒」っていうのは、今の時代に合ったお菓子づくりの考え方のような気がします。
中山:だからと言って、誰でもできるようなものを作っちゃいけないところが、難しくもあり、面白いところなのかも。
森:確かにね。単に「材料が良くなったから」「道具が良くなったから」、だから若いスタッフでも簡単にできるか?というと、そうじゃない。誰にでも作れるお菓子ではダメなんですよね。そんなの極端な話、そのへんの主婦でも同じお菓子が作れちゃう。
中山:だから、クオリティを守るのは絶対。オーナーとして、ちょっとした配合の見直しとか、できることをコツコツやっていくしかないんですよ。
森:「働き方改革」というと大げさですが、そうやって最適な方法を探ったり、働きやすい環境をつくったり、使いやすい道具を揃えてあげたり。ちょっと間接的ですが、僕らができるのはそういうところかもしれません。いい道具、という意味では、波刃モンスターも今うちの現場で、大活躍してくれていますよ。
「カットは、職人の技術の中で一番難しい」。
美しくて美味しいお菓子に仕上げるために。
ー波刃モンスターを使って、スタッフさんがケーキをカットすることもあるんでしょうか?
中山:うちの店のことだけを言うと、カットは、僕ともう一人で担当してます。若いスタッフには切らせてないんです。カットって、菓子屋の技術の中で一番難しいと僕は思っていて。だって、生地とフルーツとクリームと…って固さの違うものの組み合わせで、切る対象物によって力の入れ具合も全然違う。感覚的なコツが多いから説明もしづらいし。でも、カットだけは絶対失敗できないし、一度切ったら後戻りできない。ミスったら商品にならない。だから、とてもじゃないけど新人には任せられないんですよね。
森:あの力の入れ具合とか、キレイに切る感覚って、上手く説明できないよね。
中山:そう。単純にまっすぐ切ればいいってものでもないんですよ、これが。たとえば右利きだと、垂直に切ってるつもりでも、ほんの少し左にずれたりするし。だから、ちょっとだけ右方向にずらす意識で切ったりするんですけどね、それでやっと垂直に切れるんですよ。ここまでくると口頭では絶対説明できないから、とにかくたくさん切らないと身に付かないんです。切るって、本当に難しいと思います。
森:難しいからこそ、使いやすい道具を用意してあげるのが、僕らができることだとは思います。たとえば、大きなケーキを切るときに「刃を入れ直す」という動作もかなり難易度が高めなので、縦に一発刃を入れることから練習するのはアリかな、と。
中山:確かに、一発でいけるなら、簡単なケーキからやらせてみるのはアリですね。いい道具があれば「これならこの子に任せてもいいかな」っていう幅が広がる可能性はあると思います。仕事の幅が広がることは、その子自身の成長にもつながるし。
森:その子が経験する仕事の幅が広がるのもそうだし、業務効率が上がることで、ほかの工程に携わる時間も増えるしね。「いい道具がある」「いい環境をつくる」というのは「スタッフが成長できる」こととイコールなのかもしれません。
「使いやすい道具を導入する」ことで
作業効率も、ケーキの完成度もUPさせる。
ーお二人の現場では、どんな場面で「波刃モンスター」が活躍していますか?
森:うちの店では「リーヴルクーヘン」を切るときに大活躍してます。もうこれがないと現場が回らないってくらい。400mm辺が一回で切れるので、断面が以前より綺麗になりました。作業時間が短縮されたうえ、クオリティも上がったので、リーヴルクーヘンを切り分けるときは、複数本をフル稼働させています。
中山:400×600mmのカードルでショートケーキを仕込んだとき、400mm辺に一回刃を入れるだけで切れるのは良いですね。波刃でこれだけ長いのは、ありそうでなかった気がする。作業効率はもちろん上がりますが、僕の場合は効率よりも、綺麗に仕上がる方が嬉しいかも。短いナイフだと、一回、二回って刃を入れ直さないといけなくて。それを上手くやらないと、刃を入れ直した跡が断面に残ることがあるんですよ。その跡を残さずに切るのが、めちゃくちゃ難しい。一発ストンと刃を下ろすだけで切れると、美しく仕上がります。
森:海外製の波刃包丁は、波の間隔がここまで細かくないんですよね。間隔が広いと、そのぶん断面も粗くなっちゃう。
中山:そう。極端なこと言うと、波の間隔が細かければ細かいほど、断面は綺麗に仕上がりやすいので、細かい波刃はありがたい。
ーほかに、波刃を使うシーンはありますか?
中山:半解凍状態のケーキを切るときは、必ず波刃ですね。じゃないと押し切っちゃって潰してしまうので。例えば、フルーツが入ったムースを、カステラ包丁とかで押し切りしちゃうと、結局フルーツの重みでムースを潰しちゃうんですよ。でも波刃なら、そういう異なる固さのものを切るときに潰れないので、そういうシーンはほとんど波刃です。波刃モンスターは波が細かいので、切れ味はとても良いと思います。
ーでも波刃は「研ぎ直しが不可能」というデメリットもありますよね。
森:でも、菓子屋で切るものって柔らかいものばかりなので、相当使わないと刃は悪くならない気がする。今のところ、波刃はすぐに買い換えないといけない!みたいなイメージは全然ないですね。
中山:うん。使い捨てるようなイメージは全くないです。小さなケーキは小さな波刃で切るし、波刃モンスターが登場するのは「大きいものを切りたいとき」なので、尚更。今後も長く使えそうな気はしてます。
「個店の価値は、職人の個性にある」。
誰でも作れるお菓子では、意味がない。
ーお二人とも1店舗目が大成功し、待望の2店舗目…というタイミングですが、今回の出店、そして今後の事業拡大についてはどのようにお考えですか?
森:僕は独立して3年経って「もう少し伸ばしていきたい」と思ったタイミングで、新工場と、渋谷スクランブルスクエア店の出店を決断しました。でも、ここからどんどん店を増やして事業をどんどん大きくして…という野望はありません。
中山:事業拡大の目的や意味って、人それぞれ違うと思います。僕も4月に「ららぽーと豊洲」に2店舗目が入りますが、兄貴と同じで店舗展開はここで終わりだと思ってます。それは「目の届く範囲で、とにかくクオリティを維持させたい」というのが前提としてあるから。どこまでも職人でありたいというのがベースなんです。なので、ここからどんどん店を増やしたいとは思っていなくて。クオリティを維持するためには、僕は2店舗が限界だと思っています。
森:そうそう。
中山:でも、たまに思うんですよ。自分は職人なのか、経営者なのか。一体どっちなんだろう、って。
森:それはちょっとわかるかも。
中山:生涯職人でいたい気持ちもありますけど、経営者として成長したい、チャレンジしたい、とも思ったり。どっちなのかはまだわかってないですけど、これからずっと日本でやっていくなら、両方の側面がないといけないのかな、とも考えています。経営的な視点や感覚も持っていないと、生き残れないような気がしているので。
森:具体的には、何か策は考えてる?
中山:うーん、まだアイデアレベルで具体的な計画はないんですけど、たとえば「エクラ デ ジュール」とは全く違うブランディングで、今より少し単価の低いお菓子を揃えて多店舗展開したりとか。僕が全てに目を光らせてなくてもできるレベルに落とし込んで価格も調整すれば、いけるんじゃないかなって。
森:別のブランドを新たに立てるっていうのは、ちょっと面白そう。
中山:そう。今とは違う文脈で広げていくのはありかな、と。経営者的な視点でそういうアプローチもあるなあ、というアイデアだけですけどね。
森:うん、できると思う。中山くんなら。
中山:兄貴こそ、絶対できると思いますよ!
森:でもやっぱり個店って、そのシェフごと、その店ごとに個性や魅力があって、それが唯一無二の価値だと思うんですよね。その価値が商品力になって、値段がつき、お客さんが価値ごと買ってくれる、という。
中山:そう。僕らが作り出すものこそが、うちのブランドのオリジナリティであり、同時にその個性が他店との差別化になる。個店の良さって、まさにそこだと思います。
森:たとえば、無謀な多店舗展開でせっかくの個性を消したり崩したりしちゃうと「もうそれ、職人じゃなくてもいいじゃん」ってことになりかねない。そうするといよいよコンビニスイーツで良くない?みたいなことになっちゃうからね。
中山:そう。だから僕は、2店舗が限界なんですよ。
森:店やブランドの個性や価値を守りつつ、それとは違う路線で、さっき中山くんが言ってたみたいな別の土俵に上がってみるというのも今の時代ならではというか。それによってできることも広がりますからね。
ー今回は貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました。今後もご活躍を期待しています!
profile
EN VEDETTE アン ヴデット
森 大祐
DAISUKE MORI
国内外のコンクールで輝かしい受賞歴を誇る実力派パティシエ。「ロイスダール」「グランドハイアット東京」で経験を積んだのち、渡仏。パリ「ローラン・デュシェンヌ(M・O・F)」、「モワザン」ではシェフ・パティシエとして活躍。帰国後は「パティスリーサクラ」のオープニングに携わる。2016年、清澄白河に「アン ヴデット」をオープン。2019年11月には2店舗目となる渋谷スクランブルスクエア店をオープン。日本洋菓子協会連合会公認技術指導員。1978年、岐阜生まれ。実家は洋菓子店。
東京都江東区三好2-1-3
03-5809-9402
10:00~19:30(日曜は~19:00)
水曜定休
http://envedette.jp/
Eclat des jours エクラデジュール
中山 洋平
YOHEI NAKAYAMA
1979年、東京生まれ。「ホテル日航東京」等での勤務を経て、渡仏。「パトリック・シュバロ」「アルノー・デルモンテ」で修業を積み、帰国。「銀座菓楽」「ルエールサンク」のシェフ・パティシエを務める。2014年、東陽町に「エクラデジュール」をオープン。2020年4月には、ららぽーと豊洲内に新店をオープンする。これまで、日本国内はもちろん、フランスのコンクール等で多数の賞を受賞している。実家は、砂町で88年続く老舗パン屋「ナカヤパンヤ」で、現在は兄が三代目として家業を継ぐ。
東京都江東区東陽町4-8-21 TSK第2ビル 1F
03-6666-6151
10:00~20:00
水曜定休
http://www.eclatdesjours.jp/